二畳半生活

ぼんやりとした概念を具体化する作業途中です

看板と棚とテーブルセットを見に、京都に出かけた話

 

  東京に暮らしだしてから、毎年GWには帰省や旅行などの予定が入っていた。大型連休を生かして長期間東京を離れること、友人と予定を合わせて遊ぶことは、非日常が味わえて良い息抜きになっていたなと思う。

 しかしながら、当然本年2020年はCOVID-19感染拡大防止のため、近所のスーパーに食料を買いに行く以外は家に引きこもっていた。そのせいかGW開けて仕事が始まった今もなんだか、すっきりしない、仕事に身が入らない気分である。

 この憂鬱を吹き飛ばすため、せめて気持ちだけでも旅行気分になれるよう、過去の旅行記を書く。

 今年の2月、京都まで看板と棚とテーブルセットを見に行った話である。

 

 ●旅の目的

 数年ぶりに憧れを思い出した工芸作家の作品を見に行くこと

 

 2020年2月、国立近代美術館工芸館で黒田辰秋氏の長椅子を含めた作品を数点を見た。

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黒田辰秋作 欅拭漆彫花文長椅子 

 黒田辰秋氏は、木工、漆芸の優れた作品を数多く作り出した職人である。黒澤明宮内庁からも作品の依頼を受け、木工分野における初の人間国宝にも認定された実績のある人物である。

 彼が作った長椅子を見て、その自然な温かみのある美しさに感動し、他にも彼の作品を見たい気持ちに火がついてしまった。

 黒田辰秋氏の作品について調べたところ、名作と評価されている作品が京都市にあることが分かった。京都大学近くにある老舗喫茶店進々堂のテーブルと椅子である。

 京都であれば東京から日帰りや一泊二日で、週末に旅行に行くことも可能である。いても立ってもいられず早速旅行を計画した。

また、同じく京都市内にある河井寛次郎記念館もに黒田辰秋氏作成の看板と棚が展示されていると知り、せっかくなので立ち寄ることに決めた。

 

●行程

JR東京→(新幹線のぞみ)→JR京都→(徒歩)→京阪七条→(京阪電鉄)→京阪五条→(徒歩)→★河井寛次郎記念館→(徒歩)→京阪五条→(京阪電鉄)→京阪出町柳→(徒歩)→★進々堂

※★が今回の旅行の目的地

京都に旅行する際、出来るだけバスに乗らないよう気を付けているため、徒歩の距離が多い行程となっている。

(1日乗車券で割安に移動出来るという利点があるが、時間通りに到着しない、道路状況によっては大幅に時間がかかる、車内が混んでいることが多い、バス停の位置が慣れないと分かりにくい、などのデメリットのほうが大きく感じるため、京都旅行の際はバスの利用を避けることが多い)

 

河井寛次郎記念館の最終入館が16時半、進々堂のラストオーダーが17時45分のため進々堂は最後に向かうことにした。

京都市内の移動に30分ほど時間がかかるため、2地点ともに余裕をもって味わう場合には、京都駅には14時半頃には着いていることが理想。

 

河井寛次郎記念館

五条駅から歩いて15分ほど、住宅街の中に河井寛次郎記念館が見えてくる。

(途中に京都国立博物館や、大阪冬の陣のきっかけとなった鐘の逸話で有名な方広寺もある。時間があったら立ち寄ってみるのも面白い)

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河井寛次郎記念館 正面

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寛次郎記念館大看板

 なお、この記念館正面にあるこの大看板についても黒田辰秋氏の作品である。漆によって映える木の木目、つやが美しい。(筆は棟方志功氏)

 

 河井寛次郎記念館は、京都を拠点に活動した陶工・河井寬次郎の住まい兼仕事場を公開したものである。記念館の建物は、日本各地の民家を参考にしつつ、独自の構想のもとに設計され、1937年に建築されたもの。記念館内部には、寬次郎のデザインまたは収集による家具、調度が使用されたころのおもかげを残しながら自然に展示されている。(実際に座ることもできる椅子などもある)なお、黒田辰秋氏は陶工である河井寛次郎氏とは、生前両者が民芸運動に関わった際に関係を持っている。

 

 黒田辰秋氏の飾り棚も、部屋の中にひっそりと展示されている。制作時から年月が経つ今もなお美しい漆の風合い、棚側面の整った文様が美しい。また、展示室ではなく、元住宅街の中展示されていることで、棚のもつ実用的な美がより引き出されているように感じられた。

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黒田辰秋氏作 飾り棚 

 黒田辰秋氏の作品が見たく足を運んだ河井寛次郎記念館であったが、建物自体や、他の展示物も一部屋づつ、紹介していきたいぐらい魅力的であった。以下いくつか紹介する。

 

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2階から吹抜けを見下ろして

 吹抜けがいかされ、眼下に柱の少ない広々とした1階の空間が映える。また吹抜け向かいの2階書斎も、まるで宙に浮かんでいるような趣がある。

 

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猫石像

 河井寛次郎氏が京都市内の道具屋より購入したもの。ぽやっとした表情がかわいい。

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登り窯 

 河井寛次郎が陶芸作品制作に使用していた登り窯。登り窯の実物を見たのは初めてだったし、住宅街の中に登り窯があるという光景が見れただけでも来てよかった。

 

進々堂

 河井寛次郎記念館を楽しんだ後は進々堂に向かう。出町柳駅からの道は住宅地の中に定食屋、アパートも見受けられる。京都大学が近いからだろうか。歩いて15分ほど、反対側に京都大学のキャンパスが見えてしばらく行った地点に進々堂がある。

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進々堂 正面

 石造風のタイルや上部の曲線の飾りが素敵な看板が見える古風な進々堂にはパン購入とカフェ利用で入口が分かれており、出町柳駅から行く場合は奥のほうがカフェの入口である。店内撮影禁止のため進々堂にある黒田辰秋氏作のテーブルと椅子の魅力の説明は筆力が及ばないかもしれないがここから先は文章のみとなる。

 進々堂の創業者、続木斉氏による依頼で作成されたテーブルと椅子が8組用意されたテーブルセットは、広々とした店内に堂々と現役で使用されている。テーブル、椅子ともに分厚い板を使っており、重厚感がある。また、テーブルの下には天板より幅が短い荷物置きの板が設置されており、作成者の心遣いが素敵である。

 淡い白熱灯の灯りで照らされたテーブルは、漆塗りの机は漆が残っており色が黒く出ているところ、人の手によって漆が磨かれ木の地の色が出てきているところ、以前水がこぼれたのか、白くなっているところと机の天板1つにもこの作品が使われてからの歳月が読み取れる。そんな90年近く前に作られた憧れの作品に座ってお茶を飲めるということのありがたさを嚙みしめながら、注文したミルクティーとフランスロールを味わった。また、数年後に足を運びたい。

 

 

●最後に

 今回行った河井寛次郎記念館、進々堂のほかにも、京都には黒田辰秋氏の作品を見ることができる場所がある。また、愛知県豊田市美術館などの他県の美術館でも黒田辰秋氏の作品は展示されている。作品の図録を見るなど実際に現地に行かずとも作品を楽しむ方法はある。

 しかし、今回はるばる京都まで行って、生の作品を見て、実際に憧れの作品と同じ空間で思う存分鑑賞、体験出来たことは大変素敵な時間だった。また、当初の目的の他にも、面白いものが発見できたこと、今この記事を書くにあたって旅行中に撮影した写真を見返し思い出を楽しく振り返っていることも旅の魅力である。

 新幹線代を考えても、色々な方向から楽しめたこの旅行、行ってよかったと今改めて思う。

 この感染症の状況が落ち着いたら、また京都に、そしてほかの土地にも気軽に黒田辰秋氏の作品を見に行けますようにと願いを込めて終わりとする。

 

●(参考)黒田辰秋氏についての書籍など

この旅行を計画するにあたって読んだ本のうちおすすめのもの

青木正弘 監修『黒田辰秋の世界 目利きと匠の邂逅』世界文化社 2014年

 カラー写真で黒田辰秋氏の作品が見られる本。木工、漆、螺鈿、家具と黒田辰秋氏の作風の多様さが分かるため、気楽にペラペラページをめくるだけでも楽しい。黒田辰秋氏の作品をつくられたのか気になったら見てほしい。

 

白洲正子著『ものを創る』新潮社 2013年

 本書に、著者白洲正子氏による黒田辰秋氏のインタビュー記事が収録されている。黒田辰秋氏本人が語る、これまで関わってきた人々との思い出、作品に対する考え方や思い入れが分かる本

 

・早川謙之輔著『黒田辰秋 木工の先達に学ぶ』新潮社、2000年

 『ものを創る』が黒田辰秋氏本人の話であるのに対して、こちらは黒田辰秋氏の弟子である著者から見た黒田辰秋氏の姿が描かれている。同じ木工職人である早川謙之輔氏の視点による、師への評価や作品ができるまでの経緯が面白い

 

 本を読むほどではないけれど黒田辰秋氏の作品を見てみたい方は、インターネットに過去の展覧会で出展された作品の写真が挙がっているので探してみてください。

『イノベーション・スキルセット 世界が求めるBTC型人材とその手引き』読書メモ

  この3月から4月にかけて、目に見える形で日常が非日常へと変換され、社会の転換点に立ち会っているような気分です。終わりがわからないことにつらく、こわく思うこともありますが、今は出来る限りの衛生対策をしつつ、引きこもりを出来る限り楽しもうと思います。

 

 というわけで積読消化を進めた成果の久しぶりの読書メモです。

田川欣也著『イノベーション・スキルセット 世界が求めるBTC型人材とその手引き』

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E3%82%BB%E3%83%83%E3%83%88%EF%BD%9E%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%8C%E6%B1%82%E3%82%81%E3%82%8BBTC%E5%9E%8B%E4%BA%BA%E6%9D%90%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E6%89%8B%E5%BC%95%E3%81%8D-%E7%94%B0%E5%B7%9D-%E6%AC%A3%E5%93%89/dp/4479797033

 

・本書の概要

・感想

 について書いていきます。

 

●本書の概要

 本書はTakram代表取締役の田川欣也氏の著書です。興味をもったきっかけは大学時代の授業で著者の作品が紹介されており、なんだかかっこいいな、と思ったことからで、内容ベースではありませんでした。

 

 本書は5章構成になっており、これからの時代に必要になるであろう、経営・技術だけでなく、デザインの能力も身に着けた組織・人材の必要性について、またどのように育成すればよいのかが順序だてて記載された内容です。

 

細かい各章内容の要約は以下の通り。

 第1章:ユーザーサブスクリプションなど新しいビジネスモデルの出現、商品の多様化といった背景を説明。産業によっては、従前のビジネス、テクノロジーだけでなく今後デザインを含むクリエイティビティな人材・組織も獲得、これら3分野が連携したBTC型の組織となる必要性について説明

 第2章:これからのクリエイティビティを身につけたイノベーション人材に必要な能力、特に組織としてのその能力の育て方について具体例を用い記載

 第3章は:会社、組織がBTC組織となるためのデザインの基礎知識 (デザインの3分野、デザイン思考など)についての内容

 第4章:個人がBTC型人材になるための最初の第一歩について、ほとんど費用のかからない具体例なトレーニング方法つきで記載

 第5章:具体的なBTC事業の進め方について、実例3点付きで解説

 

●感想

 以前買って積読していたものですが、読み始めるとデザイン領域になじみのない自分でも、さくさく読める分かりやすい内容でした。また、概要を読むと経営者向けの内容といった印象を受けるかもしれませんが、一社員が読んでもこれまでに無かった考え方に知識欲が刺激されて面白いです。

・話の筋道がハッキリととしている。

・読者のなじみのない話には用語解説や具体的な事例をいれ読者を迷子にしない。

・時々記される図がわかりやすい。

・本文の配置も行間が広くとられており見やすい。

点が読みやすかった理由かと感じました。

 

 4章で出てくる頭の中やほぼ身近にあるものできる「モノとモノサシ」や「ふせんトレーニング」などのセンス、アイデアの発想力の鍛え方、特に5章に出てくるプロジェクトの進め方を読むと、今の職種とは直接は関係ないのですが、自分もイノベーションスキルを磨いて、手を動かしてものを作ってみたいと思わせられました。

 特にずしんときた言葉は、「分からないなりにもコミュニケーションをしよう」です。

 読み終えるとなんだかやる気が湧いてくる本なので、内容を程よく忘れたころに読み返したいです。あと本文中に多数の参考文献、参考資料がちりばめられていて勉強になったので気になるもの(デザイン思考の本など)は今後読んでみます。

 

(おまけ)

 なお、前回の記事で記載した国立近代美術館に展示されている黒田辰秋作の椅子ですが、2月末に滑り込みで写真を取りに行けました。

 同じく滑り込みで今年の2月中旬に京都まで行ってきたので、この時の楽しかった思い出もいつかブログに記録したいです。

東京国立近代美術館 工芸館に行って

 この度はいつもの本の感想メモから趣向を変えて、最近感動したお話です。

 社会の歯車となっていると大きく感動する機会が減っているように感じるので、この思いを書き留めておこうという気持ちで記します。

 

●内容の要約

 2020年3月8日までに東京国立近代美術館 工芸館に行こう

 

●本文

 会社で週5働いていると、社会が、街が大きく動いている時に自由時間があるのはだいたい週2くらいである。
 その週2で、日用品の買い出し、ちょっとした掃除や作り置き、寝て休んで体力気力回復、人と会うなど、来週の生活への備えをしているとまあまあせわしなく、
行ったほうが楽しいけれど、行かなくても困らないイベントは程々に後回しになる傾向にある。
 

 美術館にいく、という行為もそのひとつである。
 後回しにしすぎていつの日か行きたかった展示期間が過ぎていることも多々ある。それでも、多少時間をつくってでも展覧会に行く意味はあったと感じる出来事が最近あった。

 東京国立近代美術館 工芸館で開催中の、工芸館東京会場移転前最後の展覧会
「パッション20」である。
 その空間で展示されていたとある作家さんの作品を見ることが出来たこと。
 そして当時憧れた、今でも感動した作品に出会えたこと。
 その作品への感動を、情熱を思い出したお話。

 

 もともと、旧近衛師団司令部庁舎をリノベーションした建物、東京国立近代美術館工芸館は好きな建築だ。工芸品を見るのも好きだ。

煉瓦と漆喰のコントラストが可愛らしくもあり、
近くで見ると建物のスケールが現代より大きく風格ある外観、
昔の洋館を想起させる、手摺の意匠も美しい入口の吹き抜け大階段
昔の建物ながら程よく高さがあり、着物など高さのある展示品も見やすい展示室、
使われ方を想起させ工芸品の展示にぴったりな作り付けの茶室風スペース、

そこの展示されるのは様々な技法で作られた、焼物、織物、彫刻など

 

 移転前最後ということは知っていたので、年始の会社休みを利用して窓展のついでに先日見にいった。
 実は最後だし見ておくかくらいの軽い気持ちで行ったところ、工芸館の扉を開けて中に入り、階段をのぼりきった場所にそれはあった。

 

漆で仕上げられた木の温かな光沢、

蝶にも似た優美な花紋の曲線を描く椅子の背もたれの模様
思わず座って見たくなるような心地よさそうな高さと深さ、

ひじ掛け部分、シートそして足の優美な丸み

 

黒田辰秋氏作の長椅子である。


 時は遡り2008年、秋 当時関西の学生だった私は、
京都国立近代美術館で開催されていた「生活と芸術 アーツ&クラフツ展
ウィリアム・モリスから民芸まで」を見に行った。
10年以上も前のことを、よく覚えているなと思うかもしれないが
何のことはない、検索サイトで「京都 展覧会 アーツ&クラフツ」で調べた結果である。(調べたい展覧会が開催回数の多いルノワールフェルメール等じゃなかったことは運が良かった。)


 今となってはその展示会で見た中で覚えているのは、2つ。
 1つ、チケットやリーフレット柄にもなっていたモリスの壁紙のパターンが複数点展示してあったこと、
 そして黒田辰秋氏の漆塗り、蓋の部分の花模様が美しい四角い小箱があったことである。

 

木の素材がもつ美しさを漆が引き出していたこと、

複雑ではないが優美さを感じる大柄な箱の蓋の模様、
上手くは言えないけれど、その展覧会の作品の中で一番輝いていたように見えた。
心をつかまれ、黒田辰秋氏に強く憧れた。


 とはいえ、知らないことの調べ方も十分に身についておらず、当時はその作品と作家の名前を目に焼き付けるだけで終わってしまった。恥ずかしながら、作家の名前も、作品も感動した記憶も、いままですっかり忘れていた。

 

 けれど、2020年の工芸館のホール、

 目の前に長椅子があった。大変美しい。作品のキャプションを見る。
 黒田辰秋氏の作品だった。


 昔の感動した記憶が一気に脳内をかけめぐり、胸が熱くなった。
 今抱いた感動は10年以上前に感じた感動とは別の種類の感動だと思う。
 今の私にはあの頃ほどの情熱はないかもしれない。
 とはいえ、十数年前に憧れた作家さんの作品に触れられたこと。その時の感動をかみしめられたことが本当に嬉しかった。

 

 東京国立近代美術館工芸館で展覧会展が開催されるのは3月8日まで、あと1か月ほどである。
 黒田辰秋氏作成の長椅子が、天井が高く程よく広々とした風格あるホールに展示されるのもその日までだろうか。
 年度末はすぐに時間が過ぎるとはいうけれど、何とか時間を見つけてあの作品をもう一度見に行きたい。
 その椅子に腰掛けて、手触りを、背もたれの傾きを、座り心地を確かめたい。
 この場所にこの作品があったということを、忘れられないくらい目に焼き付けたい。
(あとカメラを忘れてきたので、ちゃんと写真に収めたい)

 

 心を動かす出会いがあるからこそ、私はこの先も美術館に行きたい。

 

 ここまで思いの丈を書いてきたけれど、黒田辰秋氏作の長椅子は以前からもホールに置かれていたらしい。
 椅子は見ていたけれど昔の記憶を思い出さなかったのか、そもそも椅子に気付かなかったのかは分からないけれど、移転前直前にこの体験ができたことは本当に幸運だった。

 この出会いを機に、時間を見つけて黒田辰秋氏について調べたり、彼の他の作品を見に行きたいとも思う。有名どころだと京都大学前の進々堂だろうか。

『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』読書メモ

 明けましておめでとうございますというにはもう遅いですが、2020年最初の更新です。

年度末の魔法なのか、あんなに時間があると思った1月ももう終わってしまっていることに驚きです。今回は人間のその実感にぴったりあてはまるような本について概要、面白かった点、感想を書いていきます。

  • 本書の概要
  • 面白かった点
  • 感想

●本書の概要

 センディル・ムッライナタン、エルダー・シャフィール著『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』についての読書メモです。『行動経済学の使い方』の文献解題に紹介されていたことから興味をもち、ハヤカワ文庫版が出ていたこともあり手にとりました。

 なお、本書英語版のタイトルは『SCARCITY(欠乏)』だけであり、「いつも時間がないあなたに」という副題は邦訳の際につけられたそうです。時間活用術の本がときどき本屋に平積みされているのを鑑みるに良い販売戦略だと思います。

 そのため本書の内容は時間の欠乏だけでなく、お金の欠乏、貧困についても半分くらいの内容をさいております。

 

 やることが多くて仕事の時間が足りない、お金が足りず借金を重ねる悪循環にはいっている、そんな「欠乏」は何故発生するのか、またどのように解決していけばよいのか行動経済学の考え方、実験も交えながら解き明かそうとされている本です。

 

●面白かった点

〇集中ボーナス・トンネリング

 締切前になると仕事がはかどる、集中して取り組める、お金がたりない時ほどお金の価値を正しく評価できる。このような効果が集中ボーナスです。

 美味しいことづくめかと思いきや、欠点もあります。目の前のことに集中しすぎるために、それ以外のことについて優先度がさがります。この効果がトンネリングです。

集中ボーナスやトンネリングは欠乏によって引き起こされます。

 

〇欠乏の構造

 ではその欠乏の原因はなにか?答えはスラック(余裕)の少なさです。3泊4日の旅行に行く際にスーツケースが大きい人に比べて、小さい人は持っていく荷物の選択に苦慮します。必要なものについて取捨選択をしないといけないかもしれません。またその苦悩は人間の注意力を奪う可能性もあります。

 このスーツケースを時間やお金に置き換えた状況が欠乏です。持ち物の取捨選択に苦悩するさいにその有用性に敏感になるように、人は欠乏に面するとそのものに対して集中します。ただし、そのこと以外についてはおざなりになる、長期的な視点がもてない、他のことを考えたいときにも欠乏しているものが考えの中心にきてしまうという問題が発生します。

 時間の欠乏→睡眠・休息不足→能率低下→時間の不足……のように欠乏は連鎖的に問題を大きくしてしまいます。集中ボーナスはあっても欠乏は長引くと望ましい状態ではないと言えます。

 

〇我々ができることは?

 ではその欠乏に対処するためにはどうすればいいのか、いくつかの事例が紹介されていました。

 お金の場合は、目の前の借金にトンネリングが発生していてもお金を返せるように積み立て制度を利用する。豊かな時期から貧しい時期までの間隔が大きくならないように生活保障費は大金をいっぺんにではなく複数回少額にわけて渡すなど。

 時間の場合は、とある会社の役職は予定の時間に面会等が終わるように予定終了5分まえに秘書にリマインドを入れさす、また組織的な事例ですが、病院の手術予定について、空の手術室を作ることで、緊急の手術が発生しても予定の組みなおしのロスを最小限に抑えるなどの工夫が挙げられていました。手術室の例については、個人の時間の使い方でも応用がききそうです。

 

 また、余裕がある豊かなときの資源の使い方を工夫することも具体例はありませんが軽く触れられていました。これについては次回作に期待するとともに、自分でもどうすれば上手く動くようになるのか考えてみたいです。

 

●感想

 締切が遠いうちよりも締切直前の仕事のほうが集中できる、なにか急ぎの仕事があると人と遊ぶ、趣味にうちこむ等の別の予定に集中しきれない、など経験・感覚からはなんとなくわかっていた傾向について、個人的なの性質ではなく人間全体の傾向だと知れた成果は大きいです。

 私自身が最近一番欠乏を感じることは時間です。特に仕事については恐ろしいくらい予定どおりにすすまず、残業してしまうこともしばしばあります。

 この問題解決に、本書にあったように秘書を雇って時間を無駄遣いさせない、予定より超過させないなどのアイデアは現実的ではありませんが、目の前の仕事にトンネリングを起こしている際でも、スマホ等にtodoリストを仕込んでおくことで仕事以外に強制的に注意を向けさせることができます。それが難しい場合でも、頭が目の前にある欠乏(仕事)の問題にいっぱいになっていて他がおざなりになっている時でも、これは人間の性質だと考えるだけでも少し視野を広く持てそうです。

 

 仕事量が多いという構造の問題は一社員ではどうしようもない部分が多いですが、比較的時間が豊かな時期(閑散期)に前もってすすめられるところはすすめておく、計画的に細かい締切を設定しておくということは今からでもできます。

 借金をしないように財布にあるお金を把握することが大切なように、仕事についても、業務量の全体把握は大切です。次々飛び込みの業務が入る仕事について、計画立てて進めるのはかなり苦手なのですが、苦手とはいえリスト化と必要な時間のみつもりだけでも習慣化していきたいです。

 

●最後に

 今回も色々と学ぶところも内省するところも多い1冊でした。

 仕事は余裕をもってすべて定時内にこなす、生活、趣味もふくめて24時間でやりたいこと全部やるというのは、私の欲が大きく達成できそうにないです。

 ただ、適度に義務感や好奇心と折り合いをつけて、いつかは必要以上に欠乏感を感じて上の空になることなく、今現在に集中した時間を多くもちたいものだと思わされました。

『実践行動経済学』読書メモ

 リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン著『実践行動経済学』の読書メモです。なお、リチャード・セイラーさんは2017年に「行動経済学への貢献」という理由でノーベル経済学賞を受賞されております。

 本書の概要、面白かった点、感想について書きます。

 

●本書の概要

 本書の構成は大きく4部に分かれます。

 最初の章では本書を読む際の基礎知識としての、一般に人間が選択する際の傾向、どのように選択肢をつくれば人間の選択に影響を及ぼすことができるのか書かれています。これまで行動経済学の本を何冊か読んでこられた方にはお馴染みの内容かもしれません。

 次の章では、貯蓄、投資、クレカの支払などを例にとり、政府、もしくは雇用企業はどのような制度設計をすれば人間の選択は望ましい方向に向くのか、どのようなナッジを取り入れるべきか具体例をもとに記されています。

 3章は2章と題材は異なりますが、大まかな話の流れは経済以外の医療制度、環境問題、婚姻制度を例にとり、またしても政府等の制度設計者はどのような選択を国民に提供するのが望ましいのか書かれています

 4章は全体のまとめとして、具体的な選択設計案、理想的な選択設計についてです。

 この本の読み手が忙しい方の場合、1章の流し読みと4章だけでも十分選択設計やナッジについての理解が深まるのではないかと思います。

 

●面白かった点

〇選択肢の数と人間の判断力の限界について

 人間の判断には合理的からは遠いバイアスがかかっています。選択には毎日実行するもの(本日の昼食)から一生に1度、2度しかないものまで回数の差があります。また、選択するための判断材料、知識が十分にあるかないかについても当然ながら差があります。

 判断する知識が乏しく、これまで経験した選択回数が少ない問題については多数の状況にあった選択肢を用意することよりも、良心的なデフォルトの選択肢を用意してやるほうが、よい結果につながるということについて、本書ではいくつか例を用いて説明されています。

 オーダーメイドよりも、デフォルトのほうが満足度が高いということは、肌感覚と異なる部分もあったのが面白かったです。ただ、買い物をする際を振り返ってみると知識が乏しい品物、めったに買わない品物(家電製品など)では、売れ筋ランキング上位に選んでいるところに、確かにデフォルトが与えられるのは選択をするうえで楽になり、選択できない状況を防げるという点ではよい制度設計だなと思いました。

 

〇結婚の民営化について

 本書では結婚制度について、現代では離婚に対する制約が薄くなってきている点、既婚者、未婚者間の不平等を理由に挙げて結婚の民営化が可能ではないのかと論じています。

 社会慣例の一種として普段は目に見えずらいのですが、今のアメリカでは(日本でも)結婚というのは政府が用意している保証制度の1つであることを結婚に付随する権利とともに示したこと、民営の保証される権利についても選択可能なパートナー制の可能性を示したということが、本書が出版された2008年当時では新しい考え方に思えたこと、昔は当然と思われた法制度についても、時代状況が変われば制度を変更したほうがより良い場合もあると示したことの3点の発想に特に感銘をうけました。

 これまでの行動経済学ではあまり触れられなかった、社会に根付いた選択肢設計の考え方がなされていて面白かったです。

 

 ほかにも面白い箇所はいくつもあったのですが、長くなってきたので省略します。

 

●最後に感想というか自省

 人間が本人が達成したいと思っている目標を達成できないことはしばしばあります。

 例えば、このブログについて、2019年当初は年10本の更新を目標にしておりました。実際に書いている記事数は5本です。達成率半分のこの数字を高いか低いかはおいておいて、この目標を達成するために、もっと出来ることがあったのになと反省しております。

 今思いつく限りで羅列してみても以下のことが挙がります。

〇行動面でできたこと

 ・さらに本屋さん、図書館に足を運んで読んでみたい本を増やすこと、

 ・通勤時間等の隙間時間等を用いて本を開くようにすること、

 ・内容が難解な本、分量の多い本はある程度読んだら内容をメモにまとめること

 ・座ってパソコンを開き文章を書く時間をルーチンとしてつくること

〇心理面でできたこと

 ・記事を書き終えた時の達成感、利点等を思い浮かべながら取り組む

 ・記事をかいたらビールを飲むなどご褒美、もしくは月〇本書けなかった場合ペナルティ

 ・完成度にこだわりすぎない

 ・記事を書く際に何がボトルネックになっているか、どうすれば改善できるか分析、実行

 

 すべての課題を急に解決、達成するのは難しいかもしれませんが、文章のトレーニングになる上に、自分の思考の整理になる、もしかしたらこの先誰かの役に立つかもしれないので、来年こそは1年で10本達成したいですし、達成するための工夫も実践していきたいと改めて思いました。

『行動経済学の使い方』読書メモ

大竹文雄著『行動経済学の使い方』を読んだ感想メモ。

読んで良かった点についてです。

 

行動経済学の既往研究の成果が簡潔にまとめられている

プロスペクト理論フレーミング保有効果、サンクコストへの誤謬……といった既往研究の成果が極めて濃縮されてまとめられています。どれくらい濃縮されているかというと、ダン・アリエリー著『予想どおりに不合理』1冊に書かれた内容、ダニエル・カーネマン著『ファスト&スロー』上下巻2冊にまとめられた内容のポイントが本書の1章(約40ページ)で簡潔にまとめられています。結論だけでいいので行動経済学について覗いてみたい方にはうってつけの本です。

 ただ、行動経済学の魅力の1つである(と思っている)、研究結果が腑に落ちるという観点でみると、その感動は上記2冊に比べて薄いように感じます。感動を得たい方、ストーリー形式でわかりやすく学びたい方は上記2冊も手に取る価値があると思います。

 

●ナッジについても簡潔にまとめられている。

 行動経済学的特性を用いることで、選択者に選択の自由を残しながら、金銭的なインセンティブを用いずに、よりよい行動を促す手法であるナッジについても、考え方から設計・チェックの仕方、実際にナッジを用いた実例について、2章において簡潔にまとめられています。

 とくに設計の方法については本書のタイトル『行動経済学の使い方』が示す通り、読者が行動経済学の研究成果をどのように仕事で人を動かす、または自分の人生を動かしていくかを考える際、指針の1つになるように感じました。

 

●使用されてる事例が身近

 本書の3章以降では行動経済学が読者の生活に及ぼす影響、社会制度に生かされてきた事例について身近なところでは仕事のモチベーションの生み出し方、大きな話題では、給与制度や消費税などについても記されています。社会的な応用事例を中心に扱った書籍は初めて読んだので勉強になりました。

 登場した事例の中で特に面白かったのは、最善の策より次善の策という部分、目標が高すぎる、大きすぎる、遠すぎると達成した時の魅力が達成するまでの労力に合わせられず、達成できないことも多い。あえてそれよりは効果は薄いかもしれないが小さな目標を毎日こなしていくほうが結果大きな成果を得られることもある、という身につまされるお話でした。

 

●巻末の文献紹介量が豊富

 論文から入門書まで23ページにわたり紹介されています。英語論文もあります。

 自分にとっては本書の一番よかったところです。もうすこし行動経済学について勉強してみたいけれど周りにくわしい人がいない、インターネットのふわっとした文献紹介の本はだいたい手にとってきた、書店のタイトル検索は数が多すぎてどれから読もうという状況だったので、読んでいない本を複数含む文献紹介はありがたいです。次読んでみたい本も見つかりました。

 

最後に 

●久しぶりの更新について

 文章を書こう書こうと思い、その為の本も読んでいたけれど、いざパソコンの前に座って落ち着いて頭の考えを文字に起こす作業が出来ず更新がご無沙汰してしまいました。

 文章を書くのは嫌いではないですが、ある程度以上の長さの文章を書くのは得意とも言えないかと内省しました。とはいえ、思ったことを伝えたい衝動はあきらめきれないのでこれからもゆっくりとでも続けていきたいです。

ゼロ秒思考を約1年続けてみた体験記

  三連休があると睡眠時間と自由に使える時間及び三連休中の食事の自由度が大きく増えて生活にゆとりが生まれるように感じます。

 まだまだブログを書くことは習慣化できていないため、ゆとりが生まれた隙を使って1記事書きます。

 

 今回は読書メモと趣向を変えて体験談です。

ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング

ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング

 

  こちら赤羽雄二著『ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング』を1年間(時々さぼりましたが)続けてきた感想を書きます。

 

〇ゼロ秒思考とは

 ・A4用紙横書きに1テーマ決めて考えたことを箇条書きする。

 ・箇条書きの個数は4~6個(もっと書きたくなったらテーマを分割する)

 ・1テーマにつき1分以内に書き上げる

 ・これを1日10分10テーマ、毎日続けると賢くなる!

 という思考能力の鍛え方の方法です。

 

 使用する紙について、コスパと書いた内容の整理しやすさ(後から関連するテーマの紙を書いた順番にとらわれずまとめられる)から、著者はコピー用紙を推奨していますが、保管の難しさ(A4のうす紙を保管しようとするとくちゃくちゃになってしまう)と手がつかれることから、私はB5ノートで代用し、ノート1冊書き終わった時に後から見返しそうなテーマにフセンを貼るようにしています。

 

〇始めたきっかけ

 仕事をやっていて、上司に「議事録がダメ!重要な発言が抜けてる、逆にこの発言は書くべきではない、てにをはがおかしい」と言われたり、A41枚(約1000文字)の資料を作っては上司に真っ赤に直され返ってくるなどの経験が多数ありました。

 頭の回転が悪いなぁ、どうしたらもっと話の流れが追えるようになるんだろう、洗練された文章をかけるんだろうと悩んでいたところに、この本を実践された方の成功体験が目に入ったのです。

 半信半疑でしたが、自分で手を動かし続けなければいけないところが気に入ったことと、頭を良くするとこについて他に具体的な解決案がなかったこと、1日10分で変われるならばお手軽だ、という理由で始めることにしました。

 

〇続けるために

 これまでの私のメモ経験は、日記は1週間以上続かない、本を読んで気になったことがあるとノートにメモするけれど、3~4か月で1冊終わる程度、職場で仕事のtodoリストとして、毎日ノート1ページ使っている程度、のあまり高くないものでした。

 以下、ゼロ秒思考を3日坊主で終わらせないためやっていること。

 ・書く時間を決める

 ◎スマホの習慣継続系のアプリを導入

 ◎好きなペン、インクの色で書く

 ◎好きなノートに書く

 ・次の日の書くテーマを前日に1つ決めておく

 ・面倒くさくなったらたった10分、と考えて書く

 ◎さぼってしまったらまあ仕方ないとあきらめ次の日からまた書く

 特に、◎がついているのが効果が大きかったように思います。

 習慣を継続するコツは人によって個人差がありますが、私にとっては続ける行動を不快に思わないこと、さぼった時に反省しすぎないことが、続けるために大事だったようです。

 

〇1年間で変わったこと

 残念ながら、1年たった今の担当業務が以前と大きく変わり、仕事で資料を作ることがなくなりました。

 ただ続けて良かったのではと思うこともいくつかありました。

 

・1日で色々なことを考えていることを認識できる

 振り返ると毎日単調なデスクワークをしているようでも、その間に仕事の成果に感情が上がり下がりしたり、人の優しさに喜んだり上司・同僚の頭のキレに尊敬したり、理不尽に憤ったりと、多様な経験、感情の変化があることを文字にすると認識できるようになりました。

 少しだけですが、仕事自体を楽しく思える時もあるようになりました。

 

・手を動かすことが前ほど苦ではなくなった

 文字を書くことについて、前は頭の中でまとまってからでないと書けなかったです。1日10テーマ分思考を絞り出すようになってからは、とりあえず書く、ということができるようになりました。

 とりあえず書いたものを見て考えつくこともあるので、これは仕事をする上で役に立っているに思います。

 

・机に座る習慣ができた

 普段会社から帰宅後は疲れてベッド直行だったのですが、机に座るようになりました。机に座るとついでに机の上にある本読もうかとか、資格試験近いしちょっと勉強するかとかなります。

 ベッドでごろごろしながらスマホを離せない状態からすこし脱却できたので良かったです。

 

・あまり失敗に悩まなくなった

 この1年間で私が失敗に慣れただけという理由もあるので、ゼロ秒思考の効果が100%とは言い切れないのですが、失敗した時に、失敗の内容、理由・原因、改善点等を書き出すことで、反省はするけれど思い悩みすぎないようになりました。

 

 逆に困ったことは、

 ・10テーマ書くのに10分では終わらず、意外と時間を使う

 というところです。

 

 全体の感想としては、頭がよくなったかはわかりませんが、もやもやした思考の可視化、外部化ができるようになったので、これからも続けようと思います。