二畳半生活

ぼんやりとした概念を具体化する作業途中です

看板と棚とテーブルセットを見に、京都に出かけた話

 

  東京に暮らしだしてから、毎年GWには帰省や旅行などの予定が入っていた。大型連休を生かして長期間東京を離れること、友人と予定を合わせて遊ぶことは、非日常が味わえて良い息抜きになっていたなと思う。

 しかしながら、当然本年2020年はCOVID-19感染拡大防止のため、近所のスーパーに食料を買いに行く以外は家に引きこもっていた。そのせいかGW開けて仕事が始まった今もなんだか、すっきりしない、仕事に身が入らない気分である。

 この憂鬱を吹き飛ばすため、せめて気持ちだけでも旅行気分になれるよう、過去の旅行記を書く。

 今年の2月、京都まで看板と棚とテーブルセットを見に行った話である。

 

 ●旅の目的

 数年ぶりに憧れを思い出した工芸作家の作品を見に行くこと

 

 2020年2月、国立近代美術館工芸館で黒田辰秋氏の長椅子を含めた作品を数点を見た。

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黒田辰秋作 欅拭漆彫花文長椅子 

 黒田辰秋氏は、木工、漆芸の優れた作品を数多く作り出した職人である。黒澤明宮内庁からも作品の依頼を受け、木工分野における初の人間国宝にも認定された実績のある人物である。

 彼が作った長椅子を見て、その自然な温かみのある美しさに感動し、他にも彼の作品を見たい気持ちに火がついてしまった。

 黒田辰秋氏の作品について調べたところ、名作と評価されている作品が京都市にあることが分かった。京都大学近くにある老舗喫茶店進々堂のテーブルと椅子である。

 京都であれば東京から日帰りや一泊二日で、週末に旅行に行くことも可能である。いても立ってもいられず早速旅行を計画した。

また、同じく京都市内にある河井寛次郎記念館もに黒田辰秋氏作成の看板と棚が展示されていると知り、せっかくなので立ち寄ることに決めた。

 

●行程

JR東京→(新幹線のぞみ)→JR京都→(徒歩)→京阪七条→(京阪電鉄)→京阪五条→(徒歩)→★河井寛次郎記念館→(徒歩)→京阪五条→(京阪電鉄)→京阪出町柳→(徒歩)→★進々堂

※★が今回の旅行の目的地

京都に旅行する際、出来るだけバスに乗らないよう気を付けているため、徒歩の距離が多い行程となっている。

(1日乗車券で割安に移動出来るという利点があるが、時間通りに到着しない、道路状況によっては大幅に時間がかかる、車内が混んでいることが多い、バス停の位置が慣れないと分かりにくい、などのデメリットのほうが大きく感じるため、京都旅行の際はバスの利用を避けることが多い)

 

河井寛次郎記念館の最終入館が16時半、進々堂のラストオーダーが17時45分のため進々堂は最後に向かうことにした。

京都市内の移動に30分ほど時間がかかるため、2地点ともに余裕をもって味わう場合には、京都駅には14時半頃には着いていることが理想。

 

河井寛次郎記念館

五条駅から歩いて15分ほど、住宅街の中に河井寛次郎記念館が見えてくる。

(途中に京都国立博物館や、大阪冬の陣のきっかけとなった鐘の逸話で有名な方広寺もある。時間があったら立ち寄ってみるのも面白い)

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河井寛次郎記念館 正面

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寛次郎記念館大看板

 なお、この記念館正面にあるこの大看板についても黒田辰秋氏の作品である。漆によって映える木の木目、つやが美しい。(筆は棟方志功氏)

 

 河井寛次郎記念館は、京都を拠点に活動した陶工・河井寬次郎の住まい兼仕事場を公開したものである。記念館の建物は、日本各地の民家を参考にしつつ、独自の構想のもとに設計され、1937年に建築されたもの。記念館内部には、寬次郎のデザインまたは収集による家具、調度が使用されたころのおもかげを残しながら自然に展示されている。(実際に座ることもできる椅子などもある)なお、黒田辰秋氏は陶工である河井寛次郎氏とは、生前両者が民芸運動に関わった際に関係を持っている。

 

 黒田辰秋氏の飾り棚も、部屋の中にひっそりと展示されている。制作時から年月が経つ今もなお美しい漆の風合い、棚側面の整った文様が美しい。また、展示室ではなく、元住宅街の中展示されていることで、棚のもつ実用的な美がより引き出されているように感じられた。

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黒田辰秋氏作 飾り棚 

 黒田辰秋氏の作品が見たく足を運んだ河井寛次郎記念館であったが、建物自体や、他の展示物も一部屋づつ、紹介していきたいぐらい魅力的であった。以下いくつか紹介する。

 

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2階から吹抜けを見下ろして

 吹抜けがいかされ、眼下に柱の少ない広々とした1階の空間が映える。また吹抜け向かいの2階書斎も、まるで宙に浮かんでいるような趣がある。

 

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猫石像

 河井寛次郎氏が京都市内の道具屋より購入したもの。ぽやっとした表情がかわいい。

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登り窯 

 河井寛次郎が陶芸作品制作に使用していた登り窯。登り窯の実物を見たのは初めてだったし、住宅街の中に登り窯があるという光景が見れただけでも来てよかった。

 

進々堂

 河井寛次郎記念館を楽しんだ後は進々堂に向かう。出町柳駅からの道は住宅地の中に定食屋、アパートも見受けられる。京都大学が近いからだろうか。歩いて15分ほど、反対側に京都大学のキャンパスが見えてしばらく行った地点に進々堂がある。

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進々堂 正面

 石造風のタイルや上部の曲線の飾りが素敵な看板が見える古風な進々堂にはパン購入とカフェ利用で入口が分かれており、出町柳駅から行く場合は奥のほうがカフェの入口である。店内撮影禁止のため進々堂にある黒田辰秋氏作のテーブルと椅子の魅力の説明は筆力が及ばないかもしれないがここから先は文章のみとなる。

 進々堂の創業者、続木斉氏による依頼で作成されたテーブルと椅子が8組用意されたテーブルセットは、広々とした店内に堂々と現役で使用されている。テーブル、椅子ともに分厚い板を使っており、重厚感がある。また、テーブルの下には天板より幅が短い荷物置きの板が設置されており、作成者の心遣いが素敵である。

 淡い白熱灯の灯りで照らされたテーブルは、漆塗りの机は漆が残っており色が黒く出ているところ、人の手によって漆が磨かれ木の地の色が出てきているところ、以前水がこぼれたのか、白くなっているところと机の天板1つにもこの作品が使われてからの歳月が読み取れる。そんな90年近く前に作られた憧れの作品に座ってお茶を飲めるということのありがたさを嚙みしめながら、注文したミルクティーとフランスロールを味わった。また、数年後に足を運びたい。

 

 

●最後に

 今回行った河井寛次郎記念館、進々堂のほかにも、京都には黒田辰秋氏の作品を見ることができる場所がある。また、愛知県豊田市美術館などの他県の美術館でも黒田辰秋氏の作品は展示されている。作品の図録を見るなど実際に現地に行かずとも作品を楽しむ方法はある。

 しかし、今回はるばる京都まで行って、生の作品を見て、実際に憧れの作品と同じ空間で思う存分鑑賞、体験出来たことは大変素敵な時間だった。また、当初の目的の他にも、面白いものが発見できたこと、今この記事を書くにあたって旅行中に撮影した写真を見返し思い出を楽しく振り返っていることも旅の魅力である。

 新幹線代を考えても、色々な方向から楽しめたこの旅行、行ってよかったと今改めて思う。

 この感染症の状況が落ち着いたら、また京都に、そしてほかの土地にも気軽に黒田辰秋氏の作品を見に行けますようにと願いを込めて終わりとする。

 

●(参考)黒田辰秋氏についての書籍など

この旅行を計画するにあたって読んだ本のうちおすすめのもの

青木正弘 監修『黒田辰秋の世界 目利きと匠の邂逅』世界文化社 2014年

 カラー写真で黒田辰秋氏の作品が見られる本。木工、漆、螺鈿、家具と黒田辰秋氏の作風の多様さが分かるため、気楽にペラペラページをめくるだけでも楽しい。黒田辰秋氏の作品をつくられたのか気になったら見てほしい。

 

白洲正子著『ものを創る』新潮社 2013年

 本書に、著者白洲正子氏による黒田辰秋氏のインタビュー記事が収録されている。黒田辰秋氏本人が語る、これまで関わってきた人々との思い出、作品に対する考え方や思い入れが分かる本

 

・早川謙之輔著『黒田辰秋 木工の先達に学ぶ』新潮社、2000年

 『ものを創る』が黒田辰秋氏本人の話であるのに対して、こちらは黒田辰秋氏の弟子である著者から見た黒田辰秋氏の姿が描かれている。同じ木工職人である早川謙之輔氏の視点による、師への評価や作品ができるまでの経緯が面白い

 

 本を読むほどではないけれど黒田辰秋氏の作品を見てみたい方は、インターネットに過去の展覧会で出展された作品の写真が挙がっているので探してみてください。