二畳半生活

ぼんやりとした概念を具体化する作業途中です

『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』読書メモ

 明けましておめでとうございますというにはもう遅いですが、2020年最初の更新です。

年度末の魔法なのか、あんなに時間があると思った1月ももう終わってしまっていることに驚きです。今回は人間のその実感にぴったりあてはまるような本について概要、面白かった点、感想を書いていきます。

  • 本書の概要
  • 面白かった点
  • 感想

●本書の概要

 センディル・ムッライナタン、エルダー・シャフィール著『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』についての読書メモです。『行動経済学の使い方』の文献解題に紹介されていたことから興味をもち、ハヤカワ文庫版が出ていたこともあり手にとりました。

 なお、本書英語版のタイトルは『SCARCITY(欠乏)』だけであり、「いつも時間がないあなたに」という副題は邦訳の際につけられたそうです。時間活用術の本がときどき本屋に平積みされているのを鑑みるに良い販売戦略だと思います。

 そのため本書の内容は時間の欠乏だけでなく、お金の欠乏、貧困についても半分くらいの内容をさいております。

 

 やることが多くて仕事の時間が足りない、お金が足りず借金を重ねる悪循環にはいっている、そんな「欠乏」は何故発生するのか、またどのように解決していけばよいのか行動経済学の考え方、実験も交えながら解き明かそうとされている本です。

 

●面白かった点

〇集中ボーナス・トンネリング

 締切前になると仕事がはかどる、集中して取り組める、お金がたりない時ほどお金の価値を正しく評価できる。このような効果が集中ボーナスです。

 美味しいことづくめかと思いきや、欠点もあります。目の前のことに集中しすぎるために、それ以外のことについて優先度がさがります。この効果がトンネリングです。

集中ボーナスやトンネリングは欠乏によって引き起こされます。

 

〇欠乏の構造

 ではその欠乏の原因はなにか?答えはスラック(余裕)の少なさです。3泊4日の旅行に行く際にスーツケースが大きい人に比べて、小さい人は持っていく荷物の選択に苦慮します。必要なものについて取捨選択をしないといけないかもしれません。またその苦悩は人間の注意力を奪う可能性もあります。

 このスーツケースを時間やお金に置き換えた状況が欠乏です。持ち物の取捨選択に苦悩するさいにその有用性に敏感になるように、人は欠乏に面するとそのものに対して集中します。ただし、そのこと以外についてはおざなりになる、長期的な視点がもてない、他のことを考えたいときにも欠乏しているものが考えの中心にきてしまうという問題が発生します。

 時間の欠乏→睡眠・休息不足→能率低下→時間の不足……のように欠乏は連鎖的に問題を大きくしてしまいます。集中ボーナスはあっても欠乏は長引くと望ましい状態ではないと言えます。

 

〇我々ができることは?

 ではその欠乏に対処するためにはどうすればいいのか、いくつかの事例が紹介されていました。

 お金の場合は、目の前の借金にトンネリングが発生していてもお金を返せるように積み立て制度を利用する。豊かな時期から貧しい時期までの間隔が大きくならないように生活保障費は大金をいっぺんにではなく複数回少額にわけて渡すなど。

 時間の場合は、とある会社の役職は予定の時間に面会等が終わるように予定終了5分まえに秘書にリマインドを入れさす、また組織的な事例ですが、病院の手術予定について、空の手術室を作ることで、緊急の手術が発生しても予定の組みなおしのロスを最小限に抑えるなどの工夫が挙げられていました。手術室の例については、個人の時間の使い方でも応用がききそうです。

 

 また、余裕がある豊かなときの資源の使い方を工夫することも具体例はありませんが軽く触れられていました。これについては次回作に期待するとともに、自分でもどうすれば上手く動くようになるのか考えてみたいです。

 

●感想

 締切が遠いうちよりも締切直前の仕事のほうが集中できる、なにか急ぎの仕事があると人と遊ぶ、趣味にうちこむ等の別の予定に集中しきれない、など経験・感覚からはなんとなくわかっていた傾向について、個人的なの性質ではなく人間全体の傾向だと知れた成果は大きいです。

 私自身が最近一番欠乏を感じることは時間です。特に仕事については恐ろしいくらい予定どおりにすすまず、残業してしまうこともしばしばあります。

 この問題解決に、本書にあったように秘書を雇って時間を無駄遣いさせない、予定より超過させないなどのアイデアは現実的ではありませんが、目の前の仕事にトンネリングを起こしている際でも、スマホ等にtodoリストを仕込んでおくことで仕事以外に強制的に注意を向けさせることができます。それが難しい場合でも、頭が目の前にある欠乏(仕事)の問題にいっぱいになっていて他がおざなりになっている時でも、これは人間の性質だと考えるだけでも少し視野を広く持てそうです。

 

 仕事量が多いという構造の問題は一社員ではどうしようもない部分が多いですが、比較的時間が豊かな時期(閑散期)に前もってすすめられるところはすすめておく、計画的に細かい締切を設定しておくということは今からでもできます。

 借金をしないように財布にあるお金を把握することが大切なように、仕事についても、業務量の全体把握は大切です。次々飛び込みの業務が入る仕事について、計画立てて進めるのはかなり苦手なのですが、苦手とはいえリスト化と必要な時間のみつもりだけでも習慣化していきたいです。

 

●最後に

 今回も色々と学ぶところも内省するところも多い1冊でした。

 仕事は余裕をもってすべて定時内にこなす、生活、趣味もふくめて24時間でやりたいこと全部やるというのは、私の欲が大きく達成できそうにないです。

 ただ、適度に義務感や好奇心と折り合いをつけて、いつかは必要以上に欠乏感を感じて上の空になることなく、今現在に集中した時間を多くもちたいものだと思わされました。